二重主語文

(1) 田中さんが息子さんが大学に受かった。


のように「主語」(あるいは「主格」というべきか)が二つある(ように見える)文を二重主語文と言い、日本語の特徴の一つとされている。
こうした文は自分の感覚だと非文とまではいかないがかなり不自然な文に感じる。どうも座りが悪い。このような文は実際にどの程度使われることがあるのだろうか。
(1)を会話文風にして


(2) 田中さんがね、息子さんが大学に受かったんですって。


とするとそれほど不自然さは感じなくなる。
ただし、(1)の文と(2)の文を同じとみなせるのかという問題もある。


(3) 息子さんが大学に受かったのは誰ですか?


の答えとして、


(1)' 田中さんが息子さんが大学に受かりました。


と言うことは理屈としてはあり得るだろう。
しかし(2)の「田中さんがね」と(1)'の場合の「田中さんが」は同じ意味だろうか。どうも違うような気がする。(1)'の場合の「田中さんが」は、誰かといえば「田中さん」、というニュアンスだが、(2)の場合の「田中さんがね」には特にそうしたニュアンスはなく、話題として「田中さん」を持ち出しただけという感じである。
また、(3)の答えとしては実際は、


(4) 田中さんです。


と言えば済むはずで、(1)'のように言うことはやはり不自然である。

というわけで、二重主語文にはどうも人工的な不自然さが付きまとうのである。


(5) 田中さんは息子さんが大学に受かった。


とすれば、「象は鼻が長い。」などと同様の文になり、「田中さんは」は「主語」ではなく「話題」(または「主題」)として提示されていることがはっきりするので、不自然さはなくなる。