貴志祐介『新世界より』を読んだ

貴志祐介の小説『新世界より』を読んだ。文庫本で上中下巻からなる大長編である。
舞台は1000年後の日本。のどかな水郷の里である神栖66町(現在の茨城県霞ヶ浦周辺、人口約3000人)で昭和中期のような生活様式で暮らす人々、科学技術文明は衰退しているが、呪力(超自然的な能力というより一応自然科学的なエネルギーに基づく力らしい)を使い何不自由なく暮らしている。しかし、そこは一見平和な風景とは裏腹に、ある恐怖に基づいて管理された社会だったというのが舞台設定となっている。神栖66町のような町がこの時代の日本には他に数箇所あり、それが日本に暮らす人々のすべてだという。
その社会は、超能力大戦ともいうべき破局で以前の文明が崩壊したあとの数百年の暗黒時代を経て新しく生まれてきた社会なので、成り立ちは明らかでない。この小説の中でははっきりとは語られていない。暗黒時代には圧制奴隷王朝をはじめいくつかの社会集団があったとされ、その中で最後まで人間的な文明社会を保持してきたグループがこの社会のルーツではないかと示唆されるものの明言されているわけではない。
ストーリーは詳しく語れないが、子供たちの成長談と冒険談、人間に匹敵するほどの知能を持ち人間に人夫として使われている巨大な齧歯類のような生き物バケネズミとの関わり、やがて大惨事が起き多くの人が死ぬといったクライマックスがある。そしてラストでは重大な秘密が一つ明らかになる。さまざまな異形の新種生物が登場してくるのも興味深い。
まだ語り尽くされていないいろいろな謎があるので、それらを解き明かすような続編が構想されているのだと思われる。


新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(中) (講談社文庫)

新世界より(中) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)