動詞の活用を語幹+接辞としてとらえなおす試み

語幹(五段動詞) 接辞 語幹(一段動詞) 接辞 接辞が表す意味 いわゆる活用形
例.聞く 話す 例.見る 寝る
kik hanas -areru mi ne -rareru* 受動・尊敬・自発 未然形
kik hanas -eru mi ne -reru (2) 可能
kik hanas -aseru mi ne -saseru* 使役
kik hanas -ou mi ne -you(4) 意志
kik hanas -anai mi ne -nai* 否定
kik hanas -azu mi ne -zu* 否定
kik hanas -i* mi ne なし(3) 継続・名詞化 連用形
kik hanas -ite* (1) mi ne -te 接続
kik hanas -ita* (1) mi ne -ta 完了・過去
kik hanas -itara *(1) mi ne -tara 完了仮定
kik hanas -itari* (1) mi ne -tari 並列
kik hanas -imasu* mi ne -masu 丁寧
kik hanas -itai* mi ne -ta 願望
kik hanas -u mi ne -ru* 連体・終止 連体・終止形
kik hanas -eba mi ne -reba* 仮定 仮定形
kik hanas -e mi ne -ro,-yo 命令 命令形
語幹(サ変動詞) 接辞 語幹(カ変動詞 接辞 接辞が表す意味 いわゆる活用形
例.する 例.来る
s -areru k -orareru 受動・尊敬・自発 未然形
k -oreru (2) 可能
s -aseru k -osaseru 使役
s -iyou k -oyou 意志
s -inai k -onai 否定
s -ezu k -ozu 否定
s -i* k -i* 継続・名詞化 連用形
s -ite* k -ite* 接続
s -ita* k -ita* 完了・過去
s -itara* k -itara* 完了仮定
s -itari* k -itari* 並列
s -imasu* k -imasu* 丁寧
s -itai* k -itai* 願望
s -uru k -uru 連体・終止 連体・終止形
s -ureba k -ureba 仮定 仮定形
s -iro k -oi 命令 命令形
s -eyo 命令


すなわち、五段動詞とは語幹が子音で終わるもの、一段動詞とは語幹が母音で終わるもの、ということになる。
接辞は*印が基本形で、語幹に接続するさいに子音が続けば先頭の子音が落とされ母音が続けば先頭の母音が落とされる。たとえば、日過去の接辞はruは、五段動詞語幹に接続する時はuになる。n,zの場合はn,zを落とすのではなく前にaを加える。つまり語幹と接辞の接続で、子音の連続、母音の連続とも避けるようにする原則である。


(1)の音便形の規則。
接辞 -ita,-iteが続くとき、k,gは脱落、r,hは脱落し接辞が-tta,-tteに変化、n,mは接辞が-da,-deに変化する。

(2)は、ら抜きことば。

(3)は、-i という接辞が本来はあったものが母音の連続により消えたとする。

(4)の意思を表す-ouが母音の後に接続するときは半母音yが挟まって-youになると考える。


このようにまとめれば、口語の五段活用と一段活用が統合され体系化できる。ただし「命令形」のみは整合しない。(だから、方言で命令形が「見れ」などになっているものは五段と一段を統合しようとする意識が働いた結果だろう)
サ変、カ変も語幹は一つで接辞が変則的になるとする。
この体系では、動詞の活用形がまずあってそこに助動詞などが接続するという一般的な国文法の考え方をあらため、動詞が活用するのではなく、不変の動詞語幹に接辞が付いて意味を表す、と考えるのである。活用形などを置かなくても、動詞語幹にそのまま接辞が付くとする方が簡潔であろう。
日本語を音節文字である仮名で表記すると動詞が語形変化するので「活用」があるように見えるが、このように語幹+接辞に分解して捉えてみると、動詞の「活用」とは、仮名文字表記上に生じただけの表面的な現象であり、日本語において実体的な存在ではないと考えてもよいのではなかろうか。
日本語の表記体系として、歴史的な経緯により音節文字である仮名が用いられてきたが、単音文字が採用されていたら、現在学校で教わるようなものとはまったく別の形式の国文法になったかもしれない。


接辞-rareru,-saseruなどは、-rare-ru,-sase-ruと分解して「一段動詞」として扱えるし、-imasu(「〜ます」)は-imas-uと分解して変則的な「五段動詞」として扱える。
「〜ます」の場合は次のようになる。

ます語幹 接辞 接辞が表す意味 いわゆる活用形
-imas -en 否定 未然形
-imas -you* 意志
-imas -ita* 完了・過去 連用形
-imas -ite* 接続
-imas -u 終止 終止形

以上は現代口語の体系だが、文語でも基本的に同じである。
古文でやった文語の「已然形」にピンと来なかった人もいるかもしれないが、語幹に-rebaという接辞が付くと考えればいいのである。
文語で「聞けば」「見れば」は仮定や条件ではなく「聞いたので」「見たので」という意味を表すので、「聞け」「見れ」を已に起こったという意味の「已然形」としているのだが、それは語幹+接辞で、kik-eba,mi-rebaということであるから、-rebaは文語では「〜したので」という意味だったのが、口語では仮定を表す意味に変化したと考えれば済むのである。
文語で仮定条件を表すのは、「聞かば」=kik-aba、「見ば」=mi-baであるから、つまり仮定を表す接辞は本来-abaだったのである。
文語で、言い切りの接辞には、-i(連用形)、-ru(終止形)、-uru(連体形)、-re(已然形)、-yo(命令形)の五種類あったとしてさらに興味深い考察ができるが、それはまた改めて書こう。


(2017年5月追記)
「派生文法」という文法体系がほぼこれと同じ考え方のようだ。自分の考えが必ずしも奇異なものではなく、ちゃんと学問的にも研究されていたことだと知って心強い。
派生文法Wikipedia

名古屋大学外山研究室 http://www.kl.i.is.nagoya-u.ac.jp/research/derivation_grammar.html


(追記2)
日本語が音節文字である仮名文字表記されている現実があるので、仮名文字表記のレベルで解釈できる文法が必要になり、学校文法のようなものが必要とされるのも仕方のないことなのかも知れない。