自動車依存社会の終焉を目指して—2. 交通犯罪がきわめて寛刑である現状

自動車依存社会の問題を論ずるにあたって、交通犯罪に対する刑罰の現状を見てみよう。
交通犯罪は現在以下のような罪とされ刑罰が課される。


危険運転致死傷罪

刑法第208条の2

1. アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。

2. 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。


・自動車運転過失致死傷罪

刑法211条
2. 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。


危険運転致死罪については、従来の交通犯罪は悪質なものでも刑罰が軽過ぎるとして、特に悪質な交通犯罪を処罰するために、2001年(平成13年)に新設された。飲酒運転やスピード違反、割り込み、信号無視などの危険運転による死傷事故を起こした者がこれで処罰される。

自動車運転過失致死傷罪については従来の自動車事故が業務上過失致死傷罪として扱われていたのが特に自動車運転における過失致死傷を処罰するために、2007年(平成19年)に新設された。これにより懲役の上限が引き上げられた。


法律の条文の上では交通犯罪は「厳罰化」「罰則強化」されたといえるかもしれない。

では、実際の運用の上ではどうだろうかと詳しくみると、従来と同じく寛刑であることに変わりがない状況がわかってくる。

これはまず起訴率をみても、全事件の起訴率はここ数年は40数%で推移しているのに対し、自動車運転過失致死傷等の起訴率は9.7%程度であり、交通犯罪で検挙されても起訴されることが少ないわけである。
さすがに、危険運転致死傷では起訴される率は高く、平成21年(2009年)では、危険運転致死傷罪では81%が起訴されている。不起訴は3.5%である。これは一般事件の不起訴率39.7%と比べれば起訴される率は高い。しかし、自動車運転致死傷になると、起訴率は0.9%、不起訴率は87.2%である。交通事故で死傷者の被害者を出しても危険運転とされなければ起訴されることは極めて少ないのである。
つぎに、交通犯罪の裁判でどのような判決が下るかみてみよう。
平成21年(2009年)の地方・簡易裁判所で有罪とされた件をみると、さすがに危険運転致死では実刑率100%であるが、危険運転致傷になると執行猶予率71.7%、自動車運転過失致死傷では執行猶予率90.9%となる。これがきわめて寛刑であることは、交通犯罪を除く全刑法犯の執行猶予率48.9%と比べてみれば分るだろう。殺人では執行猶予率21.2%、傷害では執行猶予率54.1%であるが、殺人や傷害には未遂が含まれる。
自動車運転過失致死傷罪の「ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」という規定も曲者である。
つまりこのように、交通事故は死傷者を出そうがよほどのことがなければ起訴もされなければ実刑も下されないという著しくぬるい扱いをされているのが現状である。


データは以下を参照。
交通犯罪にかかわるデータ(『平成22年版犯罪白書』より)


交通犯罪がこのようにきわめて寛刑であることは自動車依存社会の病根そのものである。


交通犯罪の加害者は非常に寛容な扱いを受けている。この「加害者に寛容」は自動車依存社会・車社会の問題を論ずる上で非常に重要なポイントになることを留意されたし。

(続く)
自動車依存社会の終焉を目指して—3. 交通事故の賠償の問題(被害者に酷で加害者に甘くできていること)


(承前)
自動車依存社会の終焉を目指して—1. 自動車の危険(鉄道との比較)