田亀源五郎『外道の家』を読んで

読もう読もうと思っていたホモ漫画田亀源五郎『外道の家』(発行/テラ出版 発売/技術と人間)上中下巻を一気に読み倒した。田亀源五郎先生は現在この分野では最高峰に位置する作家である。
話は、
終戦直後、没落しつつある地方の旧家堀川家に、近隣の村の百姓の三男鷹野寅蔵が跡取りの婿養子として迎えられた。寅蔵(髭面の逞しい若者)は新婚初夜にいきなり義父の堀川家当主の惣右衛門という禿頭の髭親父に肛門を犯されてしまう。寅蔵はそれから毎日のように惣右衛門に犯され折檻される。惣右衛門こそ男色魔のサディストであった。婿養子とは名ばかりで寅蔵は彼の兄弟たちによって奴隷家畜として金で売り渡されたのである。愛情もなく形ばかりの妻である堀川の一人娘萩乃とは種付けのような性行為により一子を得たのちは、寅蔵は完璧に家畜性奴の身分に落とされてしまい服を着ることさえ許されない。堀川家の使用人達からも虐待されるようになる。いつのまにか寅蔵は責められることや肛門性交が苦でなくなっていく。一方堀川家の家族関係には暗い秘密が隠されているのであった。そして物語は流れ世代は替わり、ラストは愛する者同士が結ばれる(ホモ漫画であるからむろん男同士である)というハッピーエンドがある一方、堀川家の「外道」の血筋は絶えることなく続くであろうことが示唆される。
というものである。
SM趣味のホモ漫画でグロいシーンも多くスカトロもあって、そんな場面の連続だから、はじめのうちはかなり息苦しいが読んでいるうちに慣れてくる。
陳腐な言いようになるが、ここでのSM趣味は愛情表現の比喩なのでもあろう。産むつもりの子ではなく生まれたとされる寅蔵は家族からも疎んじられる、身体は逞しいが多分頭はあまり良くない男で、戦場で手柄を立てようと兵隊に行ったが捕虜になってしまい故郷では村八分にされていた。惣右衛門は寅蔵に対しお前は誰からも必要とされていない人間だと言う。しかし、実は惣右衛門こそ寅蔵の逞しい肉体を性愛の対象として何よりも必要としているのであった。寅蔵にとっては初めて己を必要として求めてくれる人間に出会ったのである。寝たきりになって老いさらばえた惣右衛門は、最期は寅蔵に男根を銜えられながら息絶える。
推理小説的に見れば、堀川家の家族関係の秘密は、最初に示唆された段階でほぼ見当がついてしまう。謎解きがメインではないので、それはあまりたいしたことではない。
男色魔の惣右衛門はともかく、そうでないはずの男たちまでが髭面のごつい野郎である寅蔵に性欲を感じて犯してしまったりするは、よく考えれば不自然であるが、そこはこういう漫画でもあるし、話の流れの中で特に違和感を感じなかった。(寅蔵が中性的な青年なら自然であったろうと言っているのではなく、そういう女々しい設定は排除するのがこの作者の真骨頂なのである)
陰惨でヘビーな話ではあるものの、最後にカタルシスがあるので、読後感はそれなりに爽快であった。(ただ、萩乃を慕う使用人の秀雄というキャラは屈折している割には案外甘く、もっとワルくなってほしかったか)

参項画像は、惣右衛門が寅蔵を掘りつつ近所の人とにこやかに話す場面。描写はどきつくないがエグイ場面を引いてみた。



惣右衛門が男色家なのは生れつきではなく、あのことがあって精神的ショックで男色魔になってしまったのであろうか? あの人物がすべての元凶なのであろうか? ならばなんと陰惨であることよ。


田亀源五郎先生のサイト→http://www.tagame.org/



2010年1月20日追記
何か続編があったら読みたくなってくる。
どん底まで墜ちた堀川家は次の次の代あたりで再興し、外道の血筋はそのままで、寅蔵達の後の世代(つまり現代)で、また深い関わりが生じていく、というような。


2010年5月15日追記

なぜ寅蔵は婿入りするのに山賊のような髭を生やしたままなのであろうか? 髭面でももう少し整えようがあるのではなかろうか? まあ、熊のような髭面に男色の魅力を感じた惣右衛門の指示によるもの、と解釈するしかない。


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