最適性理論とロボット工学三原則

言語学の(主に音韻に関する)理論に最適性理論という理論があります。1990年代に現れてきた新しい理論です。
まだ勉強が進んでいないのでうまく説明しきれないのですが、あらましとしては、言語分析の常道だった「規則」や「派生」といった概念ではなく、「制約」だけで言語現象を説明・記述しようとするものです。この理論では「制約」の優先順位だけが問題になります。「規則」に照らしてルール違反のように見える言語現象に対しても、例外を組み込んだルールに修正して説明する必要がなくなり、より上位の「制約」を守るためには下位の「制約」が破られることもあるとみなします。それぞれの「制約」の優先順位は、言語ごとに、同じ言語でも時代ごとに、入れ替わっていて、それが各言語の違い、時代ごとの言葉の違いとなって現れるとするのです。
実際の言葉の例で説明できればよいのですが、まだ勉強不足なのでうまく挙げられないので、最適性理論のイメージとして別の例を挙げてみます。
それはアシモフの「ロボット工学三原則」(「ロボット三原則」とも)です。
「ロボット工学三原則」とは次のようなものです。(Wikipediaによる)


第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。


例外について条文に規定してあるので長ったらしい表現になっていますが、この三原則の優先順位は、第一条>第二条>第三条、となっていることが分ります。
この三原則を少々書き換え、次のようにしてみます。つまり例外規定を本文から外します。


第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
第三条 ロボットは自己をまもらなければならない。


そして、優先順位を、第一条>第二条>第三条、と規定してみます。

この場合、ロボットが第二条を破ったとしても、第一条を守るためだったら構わないし、第三条を破ったとしても、第一条と第二条を守るためだったら構わないわけです。

優先順位を、第三条>第二条>第一条、と変えてみたらどうでしょうか。
その場合は、ロボットが人間に危害を加えたとしても(第一条違反)、第二条や第三条を守るためなら構わないことになります。


最適性理論とはこういったイメージになると思われます。