貫井徳郎『追憶のかけら』を読んだ

貫井徳郎推理小説、『追憶のかけら』を読んだ。
あらすじは、
国文学専攻の冴えない大学講師の松嶋が、ある人物から、50数年前の戦後間も無い頃に自殺した新進作家の未発表手記を託され、この手記の謎を解いて欲しいと頼まれる。その手記は、新進作家が頼まれて人捜しをすることに始まり、やがて新進作家の身辺では悪意によるものとしか思われない事件が頻発するようになり、新進作家はとうとう根負けしてして自殺してしまう、という顛末を記した遺書であった。手記を託した人物から手記の公表の許可を得た松嶋は手記をもとに論文を書き学術誌に発表する。しかし当の手記に贋作の疑いが持ち上がり、松嶋の研究者生命が危うくなりはじめ、松嶋は自らが罠に嵌められていることを知る。松嶋がさらに調べていくと、手記の登場人物自体が松嶋自身の人生と絡んでいるのではないかという疑惑が現れてくる。そして追及した果てには意外な真相が…
というものである。
文庫本で650ページを超える長編で、全体の半分ほどを占める作中作ともいえるその手記の部分が独立した作品としても読みごたえがある。
この作品の謎は二つ、作家に悪意を向けて自殺に追い込んだのは何者か? 松嶋を破滅させようとしているのは何者か? であるが、これらが複雑に絡んでいる疑いが現れてくるわけである。
一体何が起こっているのかという謎に引き込まれ、真相に到るまで二転三転するので気が抜けないが、謎解きがされてみれば驚愕の真相、驚愕の犯人というほどではないし、動機もたいしたことではないのが、ちょっと不満ではあった。もっと恐ろしいことなのかと考えながら読んでいたので。
しかし、最後に家族愛、夫婦愛といったところに着地し、松嶋の将来にも希望が見えることを示唆して終わるので、読後感は悪くなかった。


追憶のかけら (文春文庫)

追憶のかけら (文春文庫)