様相論理

論理学において、必然や可能といった認識による推論判断にまで論理を拡張したのが様相論理である。
可能世界論によると必然(□)と可能(◇)は次のように定義される。
世界wから世界vに到達関係があることをwRv表すこととし、
□PとはwRvであるような全てのvにおいてPが真であること
◇PとはwRvであるようなあるvにおいてPが真であること
となる。
純化して言えば、全ての可能世界で真なら必然であり、ある可能世界で真であれば可能である、ということである。


必然を□、可能を◇、という記号で表すと、必然と可能の間には次のような関係がある。

1. □P≡¬◇¬P (Pが必然であるとは、Pでないことが可能でないということ)
2. ◇P≡¬□¬P (Pが可能であるとは、Pでないことが必然でないということ)
3. ¬□P≡◇¬P (Pであることが必然でないとは、Pでないことが可能であるということ)
4. ¬◇P≡□¬P (Pでないことが可能であるとは、Pでないことが必然であるということ)

5. □P→P (Pであることが必然ならばPである)
6. P→◇P (PならばPであることが可能である)
7. ¬P→¬□P (PでないならばPであることが必然でない)
8. ¬◇P→¬P (Pであることが可能でないならばPでない)


実現性の度合いは、□P > P > ◇P であることが分るだろう。


これらは量化における次の関係と重ねて考えられる。
1'. ∀xPx≡¬∃x¬Px (すべてのxにおいてPxが成り立つとは、Pxが成り立たないxが存在しないということ)
2'. ∃xPx≡¬∀x¬Px (Pxが成り立つxが存在するとは、すべてのxにおいてPxが成り立たないわけではないということ)
3'. ¬∀xPx≡∃x¬Px (すべてのxにおいてPxが成り立つわけではないとは、Pxが成り立たないxが存在するということ)
4'. ¬∃xPx≡∀x¬Px (Pxが成り立たつxが存在しないとは、すべてのxにおいてPxが成り立たたないということ)   
5'. ∀xPx→Pa (すべてのxにおいてPxが成り立つならばPaが成り立つ)
6'. Pa→∃xPx (Paが成り立つならばPxが成り立つxが存在する)
7'. ¬Pa→¬∀xPx (Paが成り立たないならばすべてのxにおいてPxが成り立つわけではない)
8'. ¬∃xPx→¬Pa (Pxが成り立つxが存在しないならばPaが成り立たない)


必然と可能は、言語のモダリティに置き換えて、必然=〜に違いない、可能=〜かもしれない、とすると
先の関係は、
1''. Pであるに違いないとは、Pでないかもしれないというわけではないということ
2''. Pであるかもしれないとは、Pでないに違いないというわけではないということ
3''. Pであるに違いないというわけではないとは、Pでないかもしれないということ
4''. Pであるかもしれないというわけではないとは、Pでないに違いないということ
5''. Pであるに違いないならばPである
6''. PであるならばPかもしれない
7''. PでないならばPであるに違いないというわけではない
8''. PかもしれないというわけでなはいならばPでない
とできるが、実現性の度合いが□P>P>◇Pとなるので、言葉のニュアンスとはぴったりこないかもしれない。モダリティを否定した言い方もかなり変則的になる。(普通は言わない表現)


だから、これにより、モダリティを否定した変則的な言い方からもっと自然な言い方への言い換えができると考えてもいいだろう。モダリティを否定したいときは言い換えればいいのである。
すなわち、上の、
3''. Pであるに違いないというわけではないとは、Pでないかもしれないということ
4''. Pであるかもしれないというわけではないとは、Pでないに違いないということ
から、
「〜に違いないというわけではない(「に違いない」の否定)」は「〜ではないかもしれない」
「〜かもしれないというわけではない」(「かもしれない」の否定)は「〜ではないに違いない」
と言い換えられる。
また、
7'''. PでないならばPでないかもしれない
8'''. Pでないに違いないならばPでない
とすることができる。


用法は若干異なるが、「に違いない」と同程度の強さの表現には「に決まっている」「はずである」などがあり、「かもしれない」と同程度の強さの表現には「と思われる」「らしい」などがある。


(追記)
様相論理、可能世界論にはさまざまな公理系があってそれぞれで成り立つ式に違いがある。S5と言われる一番広い体系がよく使われている。