論理学の練習問題
「がんばれば成功する。彼は成功した。ゆえに彼はがんばったに違いない。」
この推論は誤りである。
証明しよう。
「がんばる」をPと置き、「成功する」をQと置く。
「がんばれば成功する」はP→Qとなる。→は「ならば」を表す記号である。
P→Qの真理表は
P | Q | P→Q | |
(1) | 1 | 1 | 1 |
(2) | 1 | 0 | 0 |
(3) | 0 | 1 | 1 |
(4) | 0 | 0 | 1 |
となる。1が真、0が偽を表す。
この表についての説明は(→ *)
これだけ見ても、P→Qが真のケースつまり「成功する」と言えるケースで、Pが偽のケース即ち「がんばらない」というケースの(3)がある。だから「がんばらなくても成功する」というケースもありうるわけである。これだけでも冒頭の推論が誤りであるという説明にはなるが、もう少し詳しく見てみよう。
「がんばれば成功する。彼は成功した。ゆえに彼はがんばったに違いない」
を、
P→Q、Q ∴ P
という議論形式とする。P→QとQが前提でPが結論とする。∴は「ゆえに」を表す記号。
この真理表は次のようになる。
P | Q | P→Q | Q | P | |
(1) | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
(2) | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
(3) | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
(4) | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
この場合、前提が真のケースは(1)と(3)の二つある。(1)は結論も真であるが、(3)では結論は偽である。
つまり、正しい前提であっても、間違った結論が導かれているケースを含んでいるので、この議論形式は妥当とは言えないのである。すなわち誤った議論である。
このような、
P→Q、Q ∴ P
という形式の、誤った推論は、「後件肯定の誤謬」と呼ばれる。(この場合、P→Qが前件、Qが後件)
P→Qが真、かつQが真であることは、Pが真であることを含意しない。
PならばQが成り立ち、かつQになっているからといって、必ずしもPであるとは限らないのである。
P→Qが真であることから導かれるのは、¬P∨Qである。(∨は「または」、¬は「でない」を表す記号。¬P∨Qは「PでないかまたはQである」という意味。)
これは次の真理表から分る。P→Qと¬P∨Qの真偽のパターンが同じであるからすなわちこの二つは論理的に同じことを表している。
P | Q | P→Q | Q | ¬P | ¬P∨Q | |
(1) | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 |
(2) | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
(3) | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
(4) | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 |
だからといって、日常言語のレベルで、「がんばれば成功する」というのは「がんばらないか成功する」ということだ、と言うと何か詭弁か論旨不明のように感じてしまうのも確かである。
(追記)
あえて補足を加えて言えば、
がんばらないでいるか(その場合成功するかしないか分らない)、(がんばった結果として)成功するかのどちらかだ
となるだろうか。
(追記2)
「がんばれば成功する」という大前提自体疑わしいのではないか、とも考えられ、それは現実に即してもっともなことであるが、ここではそれは考慮しないことにする。