斉藤淳『自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾』(勁草書房 2010年)
地方の公共事業が恒久的に未完成であることが、いつまでも公共事業を政府に求め続けることになり、それが自民党政権を長続きさせてきた原因であり、新幹線などの大きな公共事業が完成した地方は、自民党への支持が低下していったという相関関係がはっきり見られるという。公共事業が未完成でいつまでも利益誘導が続けられる状況の方が自民党政権への支持が持続することになるのだから、自民党政権はむしろ事業を小出しにして完成させないできたという。
未読だから分らないが、公共事業がなかなか完成させられなければ政権が頼りがいがないとして期待がうすれて支持も離れるのではなかろうか、という疑問もわく。政権交代が現実的にあり得ない状況では不景気である方が景気をよくして欲しいという期待から政権への支持がかえって強くなるといったことと共通する逆説なのだろうか。
自民党政権を強固に支持してきた人も自民党に満足して支持したのではなく政府には常に不満を持つものだとした上での支持だったとすれば、不満であればあるほど支持を強くしなけらばならなくなるのかもしれない。
政権が有権者にちらつかせる「エサ」が、昔の「公共事業」という物質的な利益誘導であったものから、今は「政治改革」「行政改革」「構造改革」といった観念的なものへと変わったのではないか。昔のが地方対応だとすれば、今のは都市対応である。かつて「公共事業」が永遠に未完成であるのが実は政権にとって好ましかったのなら、「政治改革」「行政改革」などもまた未完成であり続けることが政権にとって好ましいのである。と考えるのはうがち過ぎだろうか。しかし「改革」は「利益誘導」に比べて有権者にアピールできる持続的な効果が弱く、郵政民営化や政権交代それ自体が大改革であったから、郵政民営化の際に自民党への支持が一気に盛り上がったがそれが決着したあとは支持は一気に凋落し、自民党から民主党への政権交代が成し遂げられれば民主党への支持も同じように萎んだ、とみられるかもしれない。だから政党や政治家は大掛かりな改革のネタを常に探し続けるようになった。今ホットな改革ネタとして挙げられるのが「公務員制度改革」(さらに「年金改革」「社会保障改革」「税制改革」「地方制度改革」などもあろう)である。
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- 作者: 斉藤淳
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(追記)
読了した。
つまり、自民党の公共政策とは結局、地域のインフラが整備され経済発展しすぎてしまうと、有権者が自民党に依存し続ける動機が薄れて支持(選挙での得票)が低下するので、自民党の金城湯池とされたところには高速道路や新幹線やなどのインフラを造るのではなく、経済発展を押さえ込む形で、ダムや土地改良事業などの経済発展に寄与しない公共事業を利益誘導として与えて自民党への依存体質と支持を持続させてきたということであったのだ。
これが自民党統治の肝要とすればまさに百姓は生かさず殺さずを地で行くようなものだ。あるいは、宗主国が植民地を発展しすぎて独立に向わないように歪な低開発状態に留めておき富を収奪していた時代のやり方とも通じる。
利益誘導の見返りとして投票を求めるのだから自民党に投票しなかった有権者には報復として経済的な制裁を与えることで締め付けてきたという(たとえば予算配分などで)。現在、民主党に政権交代したこと、つまり自民党を下野させたことを後悔している有権者が多いとしたら、この自民党の報復機構が発動されているからではなかろうか。政権交代以前の自民党が大敗した2007年の参議院選挙後から、景気対策といいながら一向に実りが無いのは、有権者に制裁が加えられているのであるから経済が回復してはむしろ困るのであろう。官僚も地方も未だに自民党がしっかり押さえているのでこうした報復が行えるのである。この場合の自民党とは中央の政党としての自民党という以上に保守体制としてずっと日本を支配してきた体制そのものと考えた方がよい。
(追記2)
従来の「政策」が「利害調整」だったとすれば「改革」はその「利害調整」の仕組みを変えるという志向であり、「利害調整」が難しい時は「改革」を唱えてあたかも「改革」が成れば「利害調整」も自ずとうまくいくかのようなビジョンを語るのが近年の政治家の常套手段になってきた。「改革」を阻害する「抵抗勢力」「守旧派」と戦うという旗印で支持を獲得しようというわけである。現代の都市有権者には泥臭い「利害調整」政策よりもその方がアピールできるのである。そして、こんな際に言われる「改革」とは多くのところ制度いじりの域を出ないものである。
(追記3)
2012年になってから自民党がさらに国民を抑圧する志向を持った政策や憲法改正案などを次々に打ち出してきたところをみると、自民党は下野させた国民に懲罰として塗炭の苦しみ味わわせたいのではないかとさえ思う。