音楽雑誌『フールズメイト』39号(1984年11月)の読者欄の味わいのある投稿

眠れる美女」よ、さようなら。
 

 奈良市 オリーヴ少女


 この間、友人が結嬉しました。20才。同級の女の子です。私なんて彼氏もいません。よってまだ処女です。友人の間では20才で処女なのは私ぐらいだといって天然記念物扱いをうけています。処女だということで完全に子供扱いにされています。あんなもん。人間としては当然のことであって自慢するもんじゃあないと思うんですけど…。なぜこんなことを書いたのかというと仕事先で24才の男に 「まだ処女でいらっしゃいますか?」 と聞かれたんです。黙っていたら 「だって君はいつも少年のような瞳をしているでしょ…」だと…男性雑誌の読みすぎだ。こいつ。と思いつつなぜか落ち込んでしまった。


 そんなお兄さんお姉さん方の環境の中で20才となった私はある日天に誓ったのであります。24才までペイル・ファウンテンズとドゥルティ・コラムが同居しているようなきれいな子でいるんだと。誓いをたててから10日程たったある日N・W少年から告白を受けてしまいました。7月のある日ニック・ヘイワードに憤れているオリーヴ少女Aがピーター・マーフィー命のN・W青年とデイ卜をしました。だけど少女Aは彼の格好が大嫌らいでした。まず髪…刈り上げで異常に前髪が長いのと黒いだけのジャケット。特に彼がよくはく安全靴が嫌いでした。彼にはニコのブルゾンかコムサのスーツを着て欲しかったんです本当は。N・W青年はそんな少女におかまいなしにレコード屋さんばかり廻ります。青年はソフトセルを少女はブルー・ベルズを買いました。そして‥帰りに寄った公園にて青年は少女に 「ノイ・パウンテン」 のテープを聴かせました。心優しき音楽が好きな少女はすっかりおびえてしまい、それを彼は包み込むように優しくキスしました。少女A20才N・W青年22才。初夏、中の島公園にて。


 —私N・Wって嫌いです健全なメンクラ兄ちゃんがよかったのに…。ある日彼の部屋によばれてしまいました。友人いわく「やったネ!やっと大人になれるチャンス!!」と。それじゃあ私のドゥルティ・コラムはどうなるの?くそ、ノイ・バウテンなんかにうばわれてたまるか!…安易な私は行ってしまいました。「PILが聴きたい…」次の瞬間何も分からなくなった…。かけっぱなしのPIL、コーヒーの香り…感情がまるでイーノ。コクトーがなんだ!芸術なんか…。所詮人間は動物じゃあない。気がつくと目に涙をため彼のモッズパーカーの下で寝っていたのでした。


ようするに、ある女の子のそういう体験の投稿なので、ホントかな?という気もしないでもないですが、ネット時代に毒されてる今だからそう思うので、その頃だから一応事実なんでしょうね。
他愛もない話だけど何か味わいがあるいい話だと思います。このカップル、彼と彼女にはそれほど方向性に違いがあるようには傍目からは見えないけど、彼女にしてはその微妙な違いが大事だった、でも結局どうでもよくなっちゃったニューウエーブ時代のカップル。

一つ付け加えれば、現在だったら、処女でも自分の趣味を優先して楽しく生きる方途がいろいろありますので、この投稿のような人もどうなっていたか分かりません。


下の画像はこの号の『フールズメイト』の表紙。今やすっかりしょぼくれた初老のおやじのデヴィッド・シルヴィアンが若くて美顔だった頃の肖像です。